※インタビュアー鉄子:以下 鉄子
轟 洋さん:以下 轟
〔鉄子〕
この業界に入ったきっかけを教えてください。
〔轟〕
土建屋さんでアルバイトをしていた私は、毎日毎日泥だらけでした。
家が裕福でなかったので、お金を稼ぐために毎日泥だらけになって働いていました。
鉄筋屋さんで働いていた先輩からは
「どうなの?そんな毎日泥だらけでさ。」
とよく言われたものですが、そんなことは気にせず、せっせせっせと働いていました。
日当4000円。当時の稼ぎにしてはかなりの稼ぎでした。
お察しの通りやんちゃだった私は(笑)ある日、とある事件を起こしてしまいました。
日当4000円の時代に、8万円の罰金を命じられ、支払いができずに途方にくれていた所、
鉄筋屋の先輩が「俺がなんとかしてやる」と、言葉を残し、ある鉄筋屋さんに話をつけてくれたのでした。
「こいつを助けてやってほしい」
先輩の一声があったおかげで、その鉄筋屋さんが
私の代わりに8万円の罰金を払ってくださいました。
その上、こんな私の面倒を見てくれると。
そんな心意気の偉大なる鉄筋職人に恩を返す為、私は「鉄筋人」になることを決意したのでした。
〔鉄子〕
「鉄筋人」になり、思い入れのあるエピソードなどを教えてください。
〔轟〕
そうですね。
とにかく力が要る仕事なんです。この仕事というのは。
30本束、約150kgの鉄筋を持ち上げるのに先輩職人は軽々と持ち上げる。
しかし私が持ち上げようとしても全然上がらないんです。
悔しかったですね。
同じ男なのに、こうも差が見えてしまった時には、心から悔しくて悔しくて。
もっと力をつけなければ、と、陰で必死に努力したことを今でも鮮明に覚えています。
そしてこの仕事には力だけでなく頭もいる。段取りが大きく出来栄えを左右する。
段取り良く鉄筋を組み、そして完成した時の達成感。
必ずそこには感動が生まれます。
美しい。本当に美しい。鉄筋を組んだ後の美しさには計り知れないものがあります。
金では買えない達成感。
複雑になればなるほど燃え上がる職人魂。
この達成感は、鉄筋職人だからこそ味わえる魅力だと思います。
〔鉄子〕
今までのベスト現場と、その理由を教えてください。
〔轟〕
2000tの鉄筋を使用した日本最大規模の徳山ダムの建設ですね。
美しいし、ごついし、若い職人が切磋琢磨しながら作ってくれた自慢の建造物です。
出来栄えはさすがだな、と思いましたね。
想い入れのある現場はやはりここです。
私は建設よりもこういった土木の仕事に、魅力を感じるのですが、
その理由としては、建築は基本的に型枠にそって鉄筋を組み、型枠に隠れてしまう。
逆に土木は、型枠に入る前に鉄筋で組む。組んだその形こそがまさに鉄筋なのです。
それが全てではないですがね。
太い鉄筋で組んでいく。
段取りよく組んでいく。
鉄筋が太ければ太いほど、ゴツくてかっこいい。
土木はこうして組んだ鉄筋全てが見えてしますので、ごまかしもきかない。
鉄筋はそれほど「正直」なのです。
そしてその正直な鉄筋こそ、とてもとても美しくて格好いいんです。
〔鉄子〕
仕事以外で印象的だったことはありますか?
〔轟〕
給料入れば飲んで食って騒いで、二日酔いでその次の日もまた飲んで食って・・・
毎日誰かが二日酔いだったんですよ。
それでも、二日酔いの時は先輩も休ませてくれたりして労ってくれるんですよね・・
仕事には厳しいのに、
二日酔いには優しいんです(笑)
今はダメですけどね(笑)
皆羽振りがよかった。
お金を稼いですぐ使っての繰り返しでした。
今ではなかなかそんな大盤振る舞いはできない景気になってしまいましたが・・・
私たち建築業界の人間が不景気になることで居酒屋やスナックがガラガラになってしまうんですよね。
バブルの時期なんかは、どこもいっぱいだったのに・・・
だから私たちの仕事が盛り上がらないと日本の景気は良くならないと思う。
私たちがとにかく働くから、とにかく遊べた、だから、居酒屋、スナックはどこも賑わっていた。
休みもあってないようなもんでしたからね。毎日毎日働いていました。
休みは盆、正月くらいしかなかったんじゃないですか?(笑)
〔鉄子〕
なぜ、独立しようと思われたのですか?
〔轟〕
そうだね、金が欲しかったから。
というか、生活していけなかったから。
と、いうのも、始め4000円からスタートしたこの仕事ですが、4500円、5000円、6000円と賃金が上がっていくにつれて、生活水準も上がっていくんですよ。
それに結婚し、子どもができ、1人で生活していた時よりもお金がかかるようになった。
鉄筋人になって10年目、25歳のことでした。
やってみるか。
と、弟をくどいて、独立することにしました。
それからはもう、無我夢中でしたね。
独立した当初はハッカー一丁だけのスタートだったのでそのほかの道具は全くなかったんですよ。
だから他社に道具を借りて仕事をやっていたのですが
「人の道具をかりて商売しとるんやな」
と言われたことに腹がたって、そして、確かにそう言われてもしゃぁないわな、と思って。
「俺はもう、道具では絶対に負けない。」
それからはそんなプライドを持って仕事をするようになりましたね。
〔鉄子〕
いろいろな経験を通して現在深く感じていることを教えてください。
〔轟〕
私たちが住んでいるこの日本は、海に囲まれた山国である。
震災や災害は避けて通れないものである。
だから、作ったものは必ずや壊れる日が来るでしょう。
しかし震災で残ったものは箱もの。
つまり、鉄筋、鉄骨で作ったものだけであることをご存知でしょうか?
絶対に鉄筋、鉄骨は日本に必要なものなのです。
鉄筋は本当に強いものなんだ。
鉄筋は本当に丈夫なものなんだ。
そういったことをみなさんに伝えていきたいですね。
そして、建築業界から日本の景気をよくしていきたい。
わたしたちが一生懸命働いて、稼いで、思い切り使う。
お金の回りをよくしていき、日本を元気にしていけたらと思っています。
私と同じ世代の皆さんは辞めていく人間もいく人も見てきたことでしょう。
我慢も辛抱もたくさんしてきたでしょうし、今もなお、していることでしょう。
でも私は、私たちにしかこの仕事はできないものだと感じています。
だからこそ自分に負けないで、業界の景気に負けないで、辛抱していきたい。
自分自身にも強く言い聞かせています。
〔鉄子〕
最後に全国の期待の星、若い子たちへのメッセージをお願いします。
〔轟〕
この仕事は辛いと思う。
しかし、この商売は絶対になくなったりはしません。
鉄筋屋はハッカーを持つ。
大工はハンマーを持つ。
昔と何も変わっちゃいないし、やること自体も昔と変わっちゃいない。
そしてそれはこれからも変わらないでしょう。
まずは枠の外で見ているのではなく、枠に飛び込んでやってみてほしい。
そして
切磋琢磨してほしい。
競い合ってほしい
一番になってほしい。
小さいことでも構わない。
「◯◯鉄筋」という集団のなかで1番になってほしい。
「あいつがいればこの現場は安心だ」と言われるようになってほしい。
TOPを目指してほしいです。やるからにはとことん、ね。
〔鉄子〕
轟さん、本当にありがとうございました!