※インタビュアー鉄子:以下 鉄子
田中 一臣さん:以下 田中
〔鉄子〕
田中さんはいつからこの業界で働いていらっしゃるんですか?
〔田中〕
私は若い頃、東京に住んでいたのですが、叔父が名古屋で加工場を持ち、鉄筋の会社を経営していたので,、たまに遊びに来てはアルバイトのようなことをしていたのです。
それが今となってはもう、30年近くこの鉄筋業界で働いております。
〔鉄子〕
鉄筋業界で働いてみた最初の印象はどうでしたか?
〔田中〕
最初の頃ははっきりと言うと「恐い」その印象が強かったです。
昔の鉄筋工といえば柄が悪くなんでも力任せ。その腕からは刺青が見え隠れする人も大勢おりました。任侠、極道の方と間違えそうな位でした。
でもそれは、まさしく「男の世界」そのものでした。
当然若いころは殴られ、蹴飛ばされ、怒やされ、時には若い衆同士の喧嘩も見かけたものです。
(救急車も現場の事故ではなく、そんな日常の喧嘩でよく来ているくらいでした。)
恐いもの知らずで鼻っぱしらが強い私はよく喧嘩を売られました。
他の業者ともやりあうなんてこともありましたが、すぐに仲直りをして酒を酌み交わしたものです。
それほど皆、本当に元気がありました。
(そして酒を飲んでまた喧嘩です。笑)
〔鉄子〕
当時の仕事はどのような感じでしたか?
〔田中〕
仕事中は、肩から血が出るほど鉄筋を担ぎ運搬しました。
来る日も来る日も担ぎばかりでした。
絶対に職人になる。取り付け組み立ての職人になる。
と誓い、歯を食いしばって辛抱しました。耐えました。
仕事を一から教えてくれる人はおらず、初めは何をやればいいかさえわからない。
「仕事のやり方が知りたければ見て覚えろ」
そんな環境でした。
(何くそ、負けてたまるかってんだ。)
悔しさをバネにがむしゃらに働く日々だったよ。
それでも不思議とこの仕事を辞めようと思ったことは一度もありませんでした。
一つは人間関係かな。
皆シャイで無口で金銭感覚が無茶苦茶で。口下手なやつばっかりだけど。
好きなんだね、俺。この男の世界が。とても粋に感じています。(ゲイじゃないよ!笑)
もう一つはこの上ない達成感。
何と言っても建物が出来た時の達成感は、つい、感極まって涙が出そうだったよ。
頑強な男たちが汗まみれで鉄を曲げ、鉄を切断。そして加工、組立をしていく。
怒号が飛び、汗の臭いがプンプン、鉄と鉄がぶつかるけたたましい音。
そんな中で唯一、空の青さ、太陽の眩しさが新鮮に思えました。
昔の単価の良い頃は月に200万、300万も給料がありました。
毎日ネオン街。
仕事も良い加減でしたが、期間にすると1〜2年はお金がたんまり入ってきました。
しかし、そんな日は長く続きませんよね。
景気が悪くなり、あっという間に天国から地獄です。
この業界で働く人口がどんどん減り、貰える給料もどんどん減って行き、「鉄筋工になりたい」
と言う若者もそれに比例してどんどん減っていき・・・
私自身も、気づいてころには儲けた金をもう、全て使い果たしていました。
大好きだった仲間の多くは転職、もしくは廃業。
賢いものはきちっと貯蓄をしていましたが・・・
惨めだったその頃、私は随分と借金もしました。
でもおかしくないか?俺たちみたいな”鉄筋人”がいなかったら建物は建たないんだぜ?
それでも右往左往しながら残った仲間達、従業員と協力しながら今日までやってきました。
こんなに長くやってこれたのは多くの仲間達が助けてくれたおかげです。
こんな経験をして今、この仕事は、お金とかじゃなくもっと大切なものをもらえる仕事に変わってきたと思ってるんだ。
〔鉄子〕
過去の経験から、現在の鉄筋人、田中さんを教えてください。
〔田中〕
私はもう現場の一線には立ってはいませんが、若い従業員が私の代わりを十二分にやってくれています。
昔からの仲間連中もしっかりサポートをしてくれています。
大変ありがたく思っています。
今、単価も安く廃業、失業者も多く大変厳しい時であります。
なんとか建設業、その中でも鉄筋業界の元気を取り戻したい、
また、皆さんにもっともっと鉄筋のこと知ってもらいたいのです。
現場に来て貰えば一目瞭然なんだけどね。
免震の建物、原発、超高層のビルにはびっくりするくらいの鉄筋量が入っています。
度肝を抜かれますよ。
アパートとか小さな建物でも綺麗に整然とした鉄筋が配置されています。
まさしく1mmの狂いもなく正確に鉄筋が並んでいる風景状況は素晴らしいものです。
でもこれも全てコンクリートの中に埋まってしまうのです・・・。
無形の文化みたいですよ。
今の若い連中は非常に勉強しています。
いろいろと考案もしているし、少しずつ工法も進歩しています。
皆、単価の良い時代を知らないし、普通にこの単価でどうすれば設けることができるのかを日々考え、意見交換をしています。
今は他者との交流、応援の行き来も自由で、そこで学習するわけだね。
〔鉄子〕
今の時代の鉄筋人として思うことを教えてください。
〔田中〕
私はこの仕事を「男の仕事」として誇りに思います。
でも若い鉄筋工はなかなか入ってきません。反対に減少しています。
社会が豊かになった今、汗を流してお金を稼ぐというのは
もう、時代遅れなのかな・・・。
なんとか古い体質、暗いイメージを打破していきたいね。
今、親方として、昔の自分の憧れの存在の位置にまで来た私ですが、仕事を始めたばかりのころから変わらず思っていることがあります。
それは
「太陽の下で汗かきながら野郎ばっかりの中で働くことが好きだ!」
ということ。
男たち10人位でチーム作ってな、太陽の下で汗水流して働いて、同じゴールに向かって働く俺たちは、
皆、だんだんと仲間になっていくんだ。
長い時間かけて働いて大きなマンションが出来た後に飲む酒は、最高にうまい!
ここに、男たちのロマンがあると思うんです。
今、若い連中60人位と回を作って話し合いを年に2回ほどするようにしています。
それがもう、5年にもなります。
魅力ある、カッコ良い、憧れを持たれるような職種になって欲しいよ。
本当に。男の仕事だよ。
俺と一緒にビル建てようぜ。
パソコンを使って図面を作成して、最新式の道具、機械を使ってスピードアップして現場ではアイパッドで指示して、スマートフォンで通信、斬新な工夫を駆使して午後3:00に帰宅。
私はまだ好奇心も、色気も多く、いろいろなことにチャレンジしてゆくつもりです。
〔鉄子〕
最後に全国の鉄筋人、そしてこれからの時代を担う若者に一言お願いします!
〔田中〕
私事ですが先月6月10日に名古屋学院大学白鳥学舎で一級建築施工管理技士の試験を受けてきました。
発表は7月20日です (←タブン)
私はこれからも愛知の鉄筋人としてあらゆる方向からこの業界を見続けて行きたい。
これからの鉄筋人が、カッコイイ魅力ある職業に、憧れの眼で見られるよう奮闘していきます!
今の時代逆に汗を流してみてはいかがですか?
ワイルドだぜぇ?(笑)
バテバテ中年の鉄筋人でした。
〔鉄子〕
田中さん、本当にありがとうございました!