※インタビュアー鉄子:以下 鉄子
成澤 清賢さん:以下 成澤
〔鉄子〕
成澤さんがこの業界で働きはじめた経緯について教えてください。
〔成澤〕
24歳の時、鉄筋工をしていた親戚から誘われたのがキッカケです。
未経験でのスタートでしたが、特に不安はありませんでしたね。
かなりキツいっていうのは知っていたけど、体力には自信があったので。
自分ならなんとかなるだろう・・と高を括っていたのですが、いざ働きはじめてみたら、キツさのレベルが尋常じゃなくてね(笑)。
本当、半年間ぐらいずっと筋肉痛が続いて、毎日「やめてやる!」て思っていたものです(笑)。
〔鉄子〕
でも、成澤さんはやめなかった。その理由はなんですか?
〔成澤〕
結局のところ、人とのつながりでしょうね。
最初うちに逃げ出さなかったのは、せっかく誘ってくれた親戚の顔に泥を塗るわけにはいかない、
という気持ちがあったからこそ。
もし自分からこの業界に足を踏み入れていたのであれば、たぶん三日でやめていたと思います。
また、その頃の鉄筋工は住み込みで働くのが当たり前な時代で、仕事が終わってからも仲間たちとはすごく近い距離でね。
同じ寮で寝泊まりし、酒を飲んだり、麻雀を打ったり。
だから、気づけば絆みたいなものが芽生えてくるわけですよ。
〔鉄子〕
鉄筋工という仕事に対する考え方が変わったのはいつからですか?
〔成澤〕
たしか、三年目の頃だったかなぁ。当時お世話になっていた社長から、ある現場を任されたんです。
下の者を2〜3人連れてやってこいって。
そんなこと、それまでありませんでしたからね。
人から信頼されて何かを任され、
自分の言葉で人を動かすなんてことは。
正直プレッシャーではありましたが、自分の責任で一つの現場を仕切り、完了へと導いてみると、
味わったことのないような充足感でね。
それまで私が見てきたものとは異なる鉄筋工の世界がパッと拓けたような気がして・・・。
「この仕事、面白いぞ」と感じ始めたのはこの時からです。
それから任される仕事の量は増えていき、それに伴い、もらえるお金も増えていきました。
本音を言うと、鉄筋工に対する考え方を変えてくれたのは、こっちの方が大きかったのかもしれないね (笑)
もう、面白いように上がっていったんですよ(※4か月で月給20万から50万に!)。
なので、結果を出せば必ず評価をしてくれた、
そして、やれば稼げる仕事だって教えてくれた、
あの社長には感謝しています。
〔鉄子〕
そのあと、独立されてからの道のりはいかがでしたか?
〔成澤〕
最初の頃は大変でしたね。仕事が少なくて。
基本的に自分だけで動いていたこともあり、受けられる仕事の規模や種類が限られていたんですよ。
でも、ひとり、またひとりと徐々に仲間が増えていき、その問題は時間が解決してくれました。
〔鉄子〕
今現在、成澤工業は数十人の従業員からなる企業へと成長されましたが、
この大所帯をまとめるのは大変ではないですか?
〔成澤〕
大変ですね。鉄筋をまとめる方がよっぽどラク(笑)。
気性の激しいタイプの人間が多いので、フィジカル的にもメンタル的にも結構なパワーが要りますよ。
でも、私にとってはこういうやつらの方が扱いやすいんですけどね。
気に入らないから怒る、納得したから従う、という具合に極めてシンプルなので(笑)。
ただ、昔ほど荒くれ者が減りましたからね。
うちの会社では新卒採用もはじめたくらいです。
かつては鉄筋工業界は仕事の質に対してシビアになってきたので、
手を抜いてなんぼだった昔のそれとは状況が違いすぎるんですよ。
もちろん、作業自体は相変わらずハードですよ。
しかし、あれもこれも任されたあの頃と決定的に異なるのは、基本的なスタイルとして分業制が確立しつつあるところ。
これは大きな現場になればなるほど言えることですが、
実際、そうしなければ利益を上げるのが難しいのが
現状なんです。
いつの時代もそうですが、巷では「最近の若いもんは・・・」って言葉をよく耳にします。
でも、私は決してそうだとは思いません。
今も昔も、入ってすぐにやめる人もいれば、気合と根性のあるやつもいます。
しかしながら、今と昔では「やめる理由」が全然違う。
昔のやめる理由といえば「何かしら気に入らないから」というのがほとんどでしたが、
昨今は「これ以上、精神的に無理だから」という理由が増えつつあります。
そりゃそうですよね。
体力的にキツイ上に来る日も来る日も同じ作業の連続じゃ、パンクするのもわかります。
経営者である私にとって、この問題を打開することは大きなテーマのひとつ。
日々、どうすれば良くなるかを模索しています。
〔鉄子〕
成澤さんの考える「鉄筋人」の育て方は?
〔成澤〕
必ず給料は現金で渡すこと。
このスタイルが成澤工業の「絶対」です。
理由としては、お金のありがたみを伝えるためとかそういうヤボなことではなく、
私が「従業員ひとり一人と月に一度は必ず向き合い、一言かけることができるから」です。
状況によっては、現場で渡すこともありますよ。みんなの仕事っぷりも見ることができますからね。
ただ時々、落としてなくしちゃうやつがいるんですよ(笑)
なので、その日だけは気をつけてくれよ!っていつも心で祈っています。
あと、自分が若い頃に身をもって学んだとおり、できるやつには相当の評価をする。
これも成澤工業の「絶対」です。実力さえあれば上を目指せる。そういう環境は整備しています。
事実、うちにいる8人の職長の年齢層は幅広いですよ。やれるやつがやる。ただそれだけなので。
また、現場が完了した時などには、打ち上げを行うこともしばしば。
この前なんて、20人で焼肉に行ったら、なんとビール260杯!こういうの、好きですねぇ。
ついでに武勇伝的な話を言うと、4600トンを40日で終わらせたことがあります。
なかなかですよね(笑)。
〔鉄子〕
未来の鉄筋人に向けてメッセージを!
〔成澤〕
興味があるから、経験してみる価値のある業界だと思います。
ただ、一度味わったら、たとえ他の業界に転職したとしても、
また戻ってきたくなるような、中毒性のある業界でもあるのでご注意を。
私自身、疲れすぎるこの仕事が癖になりました(笑)。
もう、風呂にも入れないくらいクタクタで嫌なんだけど、なぜか続けてしまう・・・。
実際の話、一度はやめたやつを無数に見てきましたが、またこの業界に戻ってくるやつも星の数ほど見てきました。
なので、覚悟は必要かな?
あと、鉄筋人になろうとしている人以外にも当てはまることだけど、
人間ってのは「キャパオーバーは進んでするべき!」だと思います。
その地獄を超えることで人は飛躍的に強くなることができる。これ、本当の話ですよ。
〔鉄子〕
成澤さん、本当にありがとうございました!